BGM4 BGM2003
無印良品のオリジナルBGMはCDで販売しています。
世界各地の生活から生まれ、時代を超えて愛され続けている音楽を、発掘し、ご紹介する無印良品のBGMシリーズは、無印良品の店内音楽としてもおなじみのメロディたちです。無印良品では、様々な街の歴史や生活に根ざした地元のミュージシャンによる音楽をBGMとして制作し、CDとして販売しています。 商業音楽が忘れかけている、音楽本来のやさしさと逞しさがここにあります。
風は、西から吹いてくる。
アイルランドを歩けば私たちはどこにいても、風の「音」に出会う。荒波に洗われて何千年の時を岩肌に刻んできたドゥン・エンガスの崖。沖8マイルの絶海にパフィン鳥の棲家を与えるスケリグの巌。ケルト十字架を林立させるクロンマックノイズ修道院のシャノンの岸辺。あるいはクレア地方の聖ブリギッドの泉の洞窟・・・。そんな場所ではもちろんのこと、緑豊かなキラーニーの小道でベリーを摘んでいても、タラモアの醸造所の扉に誘われるときも、東のタラの丘の古墳に潜り込んでも、そしてダブリンのパブの暖炉の火を見つめているときでさえ、遠い風の声が聴こえてくるのだ。
遠い昔のケルトの神話が伝えたように、アイルランド人は西方に「異界」があると信じていた。そこにはこの世ならぬ怪物が漂っているかわりに、竜宮のような五彩の海底楽園もあり、聴こえてくる風の音は、ときには美しい女に変身し、英雄を骨抜きにしたりもする。コロンブスよりも遥か以前、「約束の地」をめざしてアメリカに渡ったという聖人ブレンダンの「航海譚」は、西の異界の美しさと恐ろしさを記したものだった。西から吹いてくる「風」。それはアイルランド人のだいじな「想念」を表象しているし、それは彼らの「詩」の生まれる揺り籠なのだろう。ずっと若い日にアイルランドに暮らした私は、決して冷めない一途な恋をこの島国にしたようなものだったが、それはこの風のせいなのだ。「風景がひとつの詩そして思想でもあるアイルランド」。西風に吹かれるたびに、私はそんな信念のようなものを深めていった。
しかしこのBGMのリスナーは、そんな説明も必要とせず、トラッドなナンバーに「アイルランドの風」を聴き取るだろう。それらの曲は、風に流されて、たゆとう船に乗るような心地よさを贈りとどけるだろう。私はスケリグ島からの帰り船で名曲「カリック・ファーガス」を歌った思い出もあり好きだが、このアルバムの最後を飾る「テディー・オニール」はそれと同じくらいに心地よく懐かしく聴いている。いまや日本の巷でもアイルランド音楽はよく流れ「アイリッシュ・ダンス」は大人気である。このセレクションにはオカロランの代表曲も、トマス・ムアの「夏の名残の薔薇」も、ジグもある。フレッシュなハープ、アコーディオン、ホイッスル、フルート、ギターなどの音色は、私にアランの崖や、ケルズの修道院や、ケリーの小道などさまざまな土地で聴いたあの風を思い起こさせてくれる。
そう、このBGMさえあれば、アイルランドという極西の島国から吹いてくる風を帆に受けて、いつだって素敵な航海に出発することができるのだ。
鶴岡真弓 【無印良品 BGM4 紹介ページより】
【曲目】
1. Sidh Beag agus Sidh Mor ( O'Carolan )
2. The Mountain Top / The jolly Tinker ( trad. )
3. The Dawning of the Day ( trad. )
4. Varmland Waltz ( trad. )
5. The Last Rose of Summer ( Moore )
6. Jump out of Hogan ( trad. )
7. O'Carolan's Draft ( O'Carolan )
8. The Cliffs of Moher Set ( trad. )
9. Eleanor Plunkett ( O'Carolan )
10. An Mhaighdean Mhara ( trad. )
11. Sliabh Gheal Gua ( trad. )
12. The Butterfly ( trad. )
13. Fanny Power ( O'Carolan )
14. Miss Monaghans / Come West along the Road ( trad. ) Femando Maria Cuarteto
15. 2 Jids ( trad. ) Universitas
16. Teddy O'Neill ( trad. )
¥1,050
(本体価格 ¥1,000)